東京商工リサーチが公表している全国の企業倒産状況によると、倒産件数はリーマン・ショック時の2008年(1万5,646件、前年比11.0%増)以来、11年ぶりに前年を上回りました。このうち、人手不足関連倒産が調査開始以来最多となる426件を占めています。
消費税率の引き上げや、個人の副業等も近年増加傾向にあることに加えて新型コロナウイルスによる経済への影響もさらなる痛手となっています。
このような現状の中での小規模事業者の事業継続のために、下記、税務の側面からの対応・対策をご紹介します。
■まず、税務上における中小企業者等の定義とはいかなるものでしょうか。
1.資本金額が1億円以下である法人
下記に該当する法人は中小企業者に該当しない
- 同一の大規模法人に発行済株式等の2分の1以上を所有されている法人
- 2以上の大規模法人に発行済株式等の3分の2以上を所有されている法人
大規模法人とは…
・大法人(資本金が5億円以上の法人等)の100%子法人
・100%グループ内の大法人複数に、発行済み株式等の全部を保有されている法人
・資本金または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人超の法人
2.資本または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下のもの
3.農業組合等
中小企業者は上記1と2に掲げる法人をさし、中小企業者等とは1と3に掲げるものをさします。
国内での小規模事業者の数は、中小企業庁が公表している2019年版「小規模企業白書」に詳しく記載されているので下記、参照ください。
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/2019_pdf_mokujisyou.htm
■法人税における小規模事業者向けの特例について
1.青色申告の承認申請
法人税は申告納税制度のため、納税者が自ら計算し正しい申告を行う必要があります。所定の手続きによって決算を行い、正当な所得を計算する法人には税務署長の承認のうえ青色申告書によって申告することができ、以下の優遇措置を受けることができます。
また、承認を受けるためには青色申告書を提出する事業年度開始日の前日(設立事業年度の場合には、設立日以後3月を経過した日と設立事業年度終了の日とのいずれか早い日の前日)までに、所轄税務署長に対して青色申告承認申請を提出しなければなりません。
2.中小法人等向けの優遇措置
大企業との課税の公平の観点から設けられた中小法人向けの主な優遇措置について、下記に記載します。また、優遇措置の多くは青色申告が要件となっているため、白色申告法人では適用できない優遇措置もあります。
項目 | 内容 | 中小法人等 | 中小法人等以外 | 条文 |
貸倒引当金の損金算入 | 金銭債権等に対する貸倒引当金 | 限度額までの損金算入 | 原則として損金算入不可 | 法法52(1(2 |
欠損金の繰越控除 | 繰越欠損金を当期に損金算入 | 所得金額を限度 | 所得金額×50%を限度 | 法法57(11 |
欠損金の繰戻し還付 | 当期に生じた欠損金を前期の課税所得として相殺し、前期の納付額を還付 | 適用あり | 適用なし | 法法80(1
措法66の12(1 |
留保金課税 | 一定の留保金額を超える金額について課税 | 適用なし | 適用あり | 法法67(1 |
軽減税率 | 800万円以下の所得について15% | 適用あり(適用除外事業者(※)は19%) | 適用なし | 法法66(1(2
措法42-3-2(1 |
交際費等の損金不算入 | 交際費等につき、限度額を超える部分を損金不算入 | 1) 接待飲食費×50%
2) 年800万円 1)、2)のいずれか多い金額を限度とする。 |
限度額
接待飲食費×50% |
措法61-4 |
※適用除外事業者とは、前3事業年度の平均所得金額が年15億円を超える法人をさします。
3.中小企業者等向けの優遇措置
中小企業者等向けの主な優遇措置は下記のとおりです。
なお、所得税においても常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業者については、上記と同様の優遇措置が設けられています。
項目 | 内容 | 中小企業者等 | 中小企業者等以外 | 条文 |
試験研究費の税額控除 | 試験研究費につき、一定額の税額控除 | 控除率上乗せ要件緩和 | 通常通り | 措法42-4
4)5)6) |
賃上げ投資促進税制 | 給与増加額につき、一定額の税額控除 | 控除率上乗せ要件緩和 | 通常通り | 措法42-12-5(2 |
・中小企業投資促進税制
・商業サービス業活性化税制 ・中小企業経営強化税制 |
一定の固定資産につき、特別償却または税額控除 | 適用あり | 適用なし | 措法42-6
42-12-3 42-12-4 |
少額減価償却資産の損金算入 | 取得価額が30万円未満の資産につき、年300万円まで一時に損金算入 | 適用あり | 適用なし | 措法67-5 |
■消費税における小規模事業者の納税義務判定
当期または当年の消費税の納税義務は、法人、個人事業者ともに原則、基準期間の課税売上高によって判定することとされています。
しかし、法人の納税義務の判定については資本金額が影響する場合もあります。
1.基準期間による判定
基準期間の課税売上高が1千万円超の場合には納税義務があります。
2.特定期間による判定
1.により納税義務がないと判断された場合も、特定期間の課税売上高または給与支給額が1千万円超の場合には納税義務があります。なお、課税売上高または給与支給額のいずれで判定するかは事業者の任意とされています。
3.基準期間がない新設法人
新設法人設立1期には基準期間及び特定期間が存在しません。しかし、期首資本金額が1千万円以上の場合には納税義務があります。
4.課税事業者の選択
上記により納税義務がないと判定された場合も、事業者の選択によって納税義務を有する課税事業者となることができます。
5.その他の判定
法人で合併、分割があった際には被合併法人や分割法人の課税売上高を、個人で相続あった際には被相続人の課税売上高を考慮して納税義務の判定を行うことがあります。
また、高額特定資産を取得した事業者や大企業等によって設立された法人は、上記項目とは異なる納税義務の判定を行うことがあります。
■簡易課税制度による控除対象仕入税額の計算
基準期間の課税売上高が5千万円以下で、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を、適用する課税期間初日の前日までに納税地の所轄税務署長へ提出しているときは、実際の課税仕入れ等に係る消費税ではなく、課税売上高に係る消費税額に下記の図表のみなし仕入率を乗じた金額を控除対象仕入税額とすることができます。
区分 | みなし仕入率 |
第一種事業(卸売業) | 90% |
第二種事業(小売業) | 80% |
第三種事業(製造業) | 70% |
第四種事業(その他の事業) | 60% |
第五種事業(サービス業等) | 50% |
第六種事業(不動産業) | 40% |
■マイナンバー制度への対応
会社の規模が小さい場合、マイナンバー管理も行き届いていないことがあるのではないでしょうか。マイナンバー制度の留意点について下記記載の内容を確認するようにしましょう。
・マイナンバーに関する社内規定の作成
・マイナンバーを取り扱う担当者を決定する(経理担当者等)
・従業員からマイナンバーを取得する際は、マイナンバーに関する研修を実施し、利用目的を明らかにする。
・従業員からマイナンバーを取得する際、番号が正確か身元の確認が必要です。
顔写真付きのマイナンバーカードか、平成27年10月以降自宅に届けられている「通知カード」と「運転免許証」等で確認をしましょう。
・マイナンバーが記載されている書類の保管は、鍵がかかる棚等に保管するようにしましょう。
・パソコン等でデータ保管をしている際は、ウイルスソフト等最新版に更新するなどといったセキュリティ対策を行いましょう。
・従業員の退職、契約の終了等の際は、マイナンバーが記載されている書類やデータは厳重に廃棄・処分するようにしましょう。
■認定経営革新等支援機関の利用
人材育成や財務管理、設備投資など、経営力向上のための取り組みに係る経営力向上計画について、経済産業大臣の認定を受けた際には税制面、金融面、法務面等で支援を受けることができます。認定経営革新等支援機関によるサポートを受けることも可能です。
税務、金融・企業財務に関する専門知識や支援についての実務経験が一定レベル以上の個人、法人、中小企業支援機関等として国に認定を受けた機関が認定経営革新等支援機関です。中小企業庁のホームページより、地域ごとに検索することが可能です。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/nintei/
■働き方改革への対応
中小企業庁が公表する「働き方改革実現に向けた対策(案)」の中では、働き方改革について下記のように記載されています。
“「働き方改革」は、女性、若者、高齢者等、誰もが生きがいを感じられる「一億総活躍社会」実現の最大の鍵。 女性、若者、高齢者等の活躍を更に進めていくためには、 ・ 長時間かつ硬直的な労働時間 ・ 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差 を解消するとともに、労働生産性の向上や女性、若者の人材育成等が必要。 ※ 労働時間については、欧米諸国と比較して、長時間労働となっている労働者の割合が高い。こうした考え方に基づき、厚生労働省においては、「時間外労働の上限規制」や「同一労働同一賃金」 に関す る法整備、労働生産性の向上に向けた支援や人材育成・活用力の強化等に取り組んでいる。また、「働き方改革」は、我が国雇用の7割を占める中小企業・小規模事業者において着実に実施することが 必要。”
働き方改革への対応としては、人手不足の解消や労働基準法の遵守、給与規定、就業規則の見直しなど、社内での人事労務に関するルール整備や賃金引き上げ・労働時間の短縮、生産性の向上など取り組むべき事柄が多岐にわたります。厚生労働省や中小企業庁で相談窓口の設置や助成金の給付など、中小企業向けの支援が行われているため、それらの利用も検討するようにしましょう。